高二酸化炭素血症と聞いたら通常はCO2ナルコーシスを考えるが、今回はそれでもOK、というよりそうしなければならない場面を紹介する
代表的なのは『SAHのspasm期』
目的は、高二酸化炭素血症による血管拡張
CO2 は血管内、脳組織内CO2は血管平滑筋細胞内に容易に拡散する
【CO2は細胞膜透過性が高い】
すると炭酸脱水酵素(carbonic anhydrase)の作用によって
CO2+H2O→H2CO3→H++HCO3-となり、平滑筋細胞内pHを低下させる。
これは、アセタゾラミドの項目で以前記載している。
▶pH低下
▶細胞膜上のL型Ca2+チャネルを抑制(カルシウム遮断薬で紹介)、Ca2+の筋小胞体への結合親和性を増加
▶筋小胞体膜上のryanodine受容体を抑制
▶平滑筋細胞内の free Ca2+濃度が減少
▶血管拡張
と考えられている。
平滑筋細胞質内のCaイオン濃度が上昇すると、CaイオンはCaイオン結合蛋白質カルモジュリン(calmoduli)と結合。Caイオンと結合したカルモジュリンはミオシン軽鎖キナーゼ(myosin light chain kinase)を活性化し、この酵素が収縮タンパクを構成するミオシンの軽鎖(myosin light chain)をリン酸化。リン酸化されたミオシンはアクチンと反応し、ATPのエネルギーを利用して収縮。これが血管平滑筋の収縮。
要は、CO2でpHが低下すると、Caイオンが減少し血管が拡張する
SAH後spasm
SAH 合併症の中でも最もやっかいな現象で、ときに脳梗塞を発症し治療予後を悪化させる原因になる。
スパズム対策として、
早期手術での可及的くも膜下血腫洗浄
脳循環改善薬
塩酸ファスジル(エリル)
カルシウム拮抗薬としての塩酸ニカルジピン(ペルジピン)点滴静注療法
オザグレル ナトリウム(キサンボン)点滴静注療法
などが有名
この時期に、挿管下で頭蓋内圧亢進してない状況であれば、敢えて二酸化炭素を上昇させスパズムを予防するといい
絶対値は決まっていないようだが、pCO2 60-80mmHg程度でも大丈夫らしい
【SAH後の高二酸化炭素血症はICPセンサーや頭蓋内圧亢進症状がなければ、CO2高めで管理を】
ついでに、nitric oxide (NO,一酸化窒素)
内皮非依存性の生理的脳血管拡張ガスメディエータでCO2と並んで重要
NO は nitric oxide synthase(NOS)によって酸素とL-arginineから産生され、血管平滑筋可溶性guanylate cyclaseを活性化して血管拡張を惹起する
NOSには構成型NOSとして神経型NOS(主に神経細胞に分布)と内皮型NOS(主に血管内皮細胞に分布)があり、他に誘導型NOS がある。
安静時脳血流量維持や自動調節に血管内皮におけるNO産生が重要
なお、NOSは翼口蓋神経節や三叉神経節由来の脳血管周囲神経線維にも含有され、安静時の脳血流調節には関与しないが、これら神経節刺激による脳血管拡張に関与することが示され、片頭痛などの病態に役割を果たしている可能性がある
一酸化炭素 (CO)にも血管平滑筋可溶性 guanylate cyclase活性化作用があるがNOのわずか1%の強さしかなく、脳血管拡張を介する生理的役割はNOよりかなり弱い
アセタゾラミド負荷試験
内頸動脈など脳主幹動脈の閉塞や高度狭窄があり、血行再建術の適応を検討する際に、いわゆる脳循環予備能を評価するためにSPECTなどの脳血流検査法の1つ
アセタゾラミドは、赤血球の炭酸脱水酵素を阻害し CO2 の脳組織からの洗い出しを抑 制することによる脳組織 CO2 蓄積によって惹起される脳血管拡張反応をみている
CO2 吸入負荷と異なり、アセタゾラミド負荷試験では脳代謝因子も含まれることを念頭に置いた方が良い
【肺保護戦略】
ALI・ARDSに対する呼吸管理法で、肺の過膨張による正常肺の障害を避け肺を保護する目的でおこなわれる。
- 低一回換気量(6ml/kg)(lower tidal volume ventilation)
- 吸気プラトー圧 < 30 cmH2Oを目標
- 吸気プラトー圧の制限を優先し,そのためには高炭酸ガス血症を容認する(permissive hypercapnea)
- PEEPは呼気終末における肺胞の虚脱を防ぐためのレベルに設定する
このときも、もちろん頭蓋内圧亢進時には禁忌です。
最も強力な生理的脳血管拡張物質
5~7%のCO2ガス吸入で脳血流量は平均75%増加
過換気によって脳血流量は減少し、動脈血 CO2 分 圧(PaCO2)が25~60 mmHg の範囲で、脳血流量は PaCO2の上昇と共にほぼ直線的に、PaCO2 1mmHg あたり2mL/100 g/minの割合で増加