現在の手術麻酔において、吸入麻酔と静脈麻酔を組み合わせたバランス麻酔や完全静脈麻酔など、それぞれ麻酔科医や診療看護師、麻酔看護師が症例に合わせて施行している。
それぞれの麻酔法のメリットデメリットを把握し適切な麻酔法を選択しなければ、安全な麻酔は成り立たない。
今回は、吸入麻酔と静脈麻酔の違いを簡単に
吸入麻酔薬
ガス麻酔薬はN2O:亜酸化窒素(笑気)のみ
揮発性麻酔薬には、セボフルランやデスフルラン等がある
- 薬物の投与経路(=気道)が確保されている
- 気化器の設定濃度を変更することにより、容易に濃度を調節できる
- 吸気呼気中の薬物濃度をリアルタイムでモニターできる
静脈麻酔薬
- TIVAはTCIにて患者状態に応じて細かく目標濃度を調節することが可能
- 血中濃度のリアルタイムモニタリングは現実化していない
全静脈麻酔(TIVA:total intravenous anesthesia)
患者の意識を消失させ(導入)、その状態を維持するためにプロポを持続投与し、オピオイドによって術中の鎮痛を図る方法
標的濃度調節持続静注:TCI(target controlled infusion)
プロポの濃度を理論的に予測しながら投与する方法
代表的な薬剤(吸入麻酔薬)
■セボフルラン
MACは成人で1.71だが加齢と共にMACは低下し、10歳上がると7.2%低下する
高齢者では20歳の半分まで低下することに注意
吸入器を指標に固定する方法や呼気濃度を1%になるように調節する方法がある
小児は2.5~3.3%
気道刺激性が少ないことが最大の特徴で、吸入導入が可能
筋弛緩薬の作用を増強し、単独でも筋弛緩作用を示す
血液/ガス分配係数が低い
→導入が迅速であることに加えて気道刺激性が少なく最もVIMAに適している。
▲腎毒性・痙攣・肝障害に注意が必要だが非常に稀
▲導入途中で興奮状態になることがある
最小肺胞濃度(MAC:minimum alveolar concentration)とは、皮膚切開を加えたときに50%のヒトで体動が認められない最小の吸入麻酔薬の肺胞濃度(1気圧下)のこと
ED50%(50%有効量)に等しく、各吸入麻酔薬間の力価(強さ)を比較するのに適している
VIMA:volatile induction and maintenance of anesthesia
吸入導入後にそのまま揮発性麻酔薬で維持する方法
小児では麻酔導入前の静脈鹵獲補困難からVIMAが行われている
■デスフルラン
日本で最も新しい揮発性麻酔薬(2011年~)
血液/ガス分配係数や脂肪/血液分配係数(血液への溶解度)が最も小さく、麻酔終了後も速やかに肺胞より排出されるため、早期覚醒・回復が期待できる
→日帰り手術に有用
生体内代謝率0.02%と低く代謝産物による毒性リスクも低いため、肝・腎障害・痙攣リスクにおいて他より安全
▲気道刺激性と交感神経刺激作用があり小児や末梢静脈鹵獲補困難症例に対する吸入導入は不適当
▲麻酔からの覚醒が早いため、十分鎮痛対策を施しておかないとOP室から創部痛で苦しむ可能性
揮発性麻酔薬のまとめ
- 揮発性麻酔薬には強い気管支拡張作用が有り、気管支喘息を合併した患者の麻酔管理では静脈麻酔薬よりも吸入麻酔薬が好まれる傾向
- セボフルランによる吸入導入は静脈麻酔薬に比べて自発呼吸が残りやすく、挿管困難症例などに応用される
- 揮発性麻酔薬には虚血プレコンディショニング作用があると考えられ、心筋虚血を起こす可能性のある患者における有用性が示唆される
- 全身麻酔では揮発性麻酔薬単独で維持することは少なく、鎮静薬として吸入麻酔を行い、鎮痛薬はオピオイドや硬膜外麻酔を併用するバランス麻酔が一般的
- レミフェンタニルと併用するセボの濃度は1.0%と記載されているが、術中覚醒に対する懸念から1.2~1.5%で維持することが推奨される
- デスに関しては、BIS値50-60に維持するためにレミフェンタニル0.2μg/kg/minとの併用で2.8-3.3%で維持可能であったとの報告があるが、確実にするには3.6-4.0%以上の高めに維持する
- 術中覚醒を回避するには、0.7MAC以下にならないようにアラームを設定する
代表的な薬剤(静脈麻酔)
■プロポフォール
プロポの禁忌はプロポのアレルギーと大豆や卵黄のアレルギーがある人
標準的導入投与量:2~2.5mg/kg
高齢者・状態悪い症例:0.5~1mg/kg程度でも可
導入は速やかで数分以内に就寝
標準的投与量では多くの場合自発呼吸は抑制される
プロポで導入、セボフルランで維持は広く行われる
プロポは、術後悪心嘔吐(PONV)の頻度が低い利点がある
悪性高熱症の既往や素因のある患者では、引き金となり得る吸入麻酔薬は絶対禁忌であり、プロポの良い適応。
■レミフェンタニル
フェンタニルより血液や組織中で迅速に分解されるため、術中に高濃度を維持するように投与しても手術終了時に投与を中止すると短時間で濃度が減少し、自発呼吸が再開する
安定した濃度を維持するためには持続静脈内投与が必須
概ね0.1~0.5μg/kg/minの投与速度で十分に侵襲に対する生体反応(血圧上昇、心拍数増加、体動)を抑制することが可能
レミフェンタニルにて術後呼吸抑制の心配せず術中に十分な鎮痛を得ることができるが、術後の鎮痛は得られない
中等度以上の鎮痛が加わる手術では、麻酔覚醒時から術後早期の痛みを軽減するために、終了前に長時間作用性のオピオイド(モルヒネorフェンタニル)かNSAIDsを投与しておくことが重要
オピオイドは鎮痛薬であり、全身麻酔にはセボかプロポの鎮静薬の併用が必須
静脈麻酔薬のまとめ
- 末梢血管確保部位の固定、輸液ルートの接続を正確に行い、三方活栓部分の緩みや向きに気をつける
- 静脈麻酔薬濃度のモニタリングは現実化しておらず、慎重な薬物投与と状態観察が必要
- 脳波モニタリング bispectral index(BIS)などを参考にすることができる
だいたいこんな感じ
《まとめ》
気管支喘息患者 吸入麻酔>静脈麻酔 興奮注意
挿管困難症例 吸入麻酔>静脈麻酔 興奮注意
心筋虚血の可能性 吸入麻酔>静脈麻酔 興奮注意
悪性高熱症 吸入麻酔✕ 静脈麻酔○
セボフルラン 最もVIMAに適す 興奮注意
デスフルラン 日帰り手術に適す
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